マレーシア編 コノハムシを捕まえろ

旅の最後に 昆虫放浪記 -コノハムシを捕まえろ- その19

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タパーへ帰還

アカエリトリバネアゲハの撮影をある程度終え、時計を見ると10時半を回っていた。
ここからタパーの街まで3時間、クアラルンプールまでのバスやらなんやらを考えるとそんなにうかうかしてはいられない。

蝶たちにさよならを告げ、僕は10キロの道を歩き始めた。
今日は天気が良さそうだ。

鶏の放し飼い。ひよこが猛烈にかわいい。

家は昔ながらのものという感じがするが、電気も普通に通っていて、日本で見るような立派な車が停まっているのをみると、生活水準はそれなりに高いんだろうなというのがわかる。

前日とはうってかわり、足取りが軽い。
瞬く間にタパーの街へ到着してしまった。
時刻は午後1時過ぎ。

バスのチケット

ここで一つ問題が生じた。

帰りのバスのチケットをまだ買っていなかった。
買おうにもどこがチケット売り場なのか検討もつかなかったからだ。

バスのチケット売り場っぽいところへ行き、そこのおばちゃんにクアラルンプール行きのバス乗りたいというと面倒くさそうに向こうだよ、みたいな素ぶりをする。
ここはチケット売り場ではなく、どうやら競馬とかそういうお店だった。
だって店の前にそれらしい数字が並んでたら勘違いしちゃうよ。

泊まっていたホテルにもどり、フロントの兄ちゃんに尋ねる。
丁寧に教えてくれた。
マジでありがとうフロント兄ちゃん。

今度こそチケット売り場に行き、中国系のおばちゃんからチケットを買った。
15時発だから、出発30分前ぐらいになったらここにまた来てくれとのこと。

お腹が空いていたので再びKFCでチキンを食らう。
アルバイト募集のポスターが貼られていた。
当然のことながら日本の賃金の方が高いよな、なんてことを考えているうちにバスの出発30分前になったので先ほどのチケット売り場へ。

おばちゃんからチケットを受け取ると、バス停は向こうだよと教えてくれる。
僕がちょっと困った顔をしていると、後ろに並んでいた兄ちゃんが俺が連れてってあげるよと英語で言ってくれた。

バス停は少し歩いたところにあり、さっきチケット売り場と勘違いした店の真ん前だった。

連れてってくれた兄ちゃんと少し立ち話をした。
日本にも何回か来たことがあるみたいで、川崎とか行ったりしていたらしい。

英語がペラペラしゃべれたらもっといろいろ話せたのになと痛感する。
バスの中ではその兄ちゃんと隣だったが特に話すこともなく、僕は気がついたら眠ってしまっていた。

クアラルンプールに着いた。
隣に座っていた兄ちゃんは、手を差し出し握手を求めた。
僕がそれに応えると兄ちゃんは両手を添えて握手をし、
「ありがとう。会えてよかったです」と言ってくれた。
感謝すべきは僕の方だ。

旅を終えて

帰る日になった。
世話になったクアラルンプールのホテル
(その名はホテル・サンビームパーム 昆虫放浪記 -コノハムシを捕まえろ- その6 第1日目⑤)
のチェックアウトをし、外に出てしばらく歩いていると後ろから誰かが叫びながら僕のことを追いかけていることに気がついた。
うわー、朝から絡まれるのは嫌だなと思ったが振り返ってみるとフロントのおっちゃんだった。(お祈りずっとやってた人)

「デポジット!」
とおっちゃんが叫ぶ。

ああ、だからちょっと宿泊料が予約したときより高かったのね。
そして追っかけてくれてありがとうおっちゃん。

数々の優しさに触れて僕は日本へと帰った。
マレーシアに行く前後で、ほんの少しでも僕は大人になれたんだろうか?

1週間ちょろっと海外行っただけで、世界を見て来たようになってしまった自分がいる。
正直何一つ変わっていないんじゃないかなと思う。

日本に帰って来て数日間は何となく周りが小さく見えたような気がしたが、日を重ねるごとにそんな気持ちは消え失せ、もとの自分に戻ってしまった。(1年とか2年間旅したらさすがに何か変わる気はするけども)

人を変えるものってのは結局習慣だ。
とはいえマレーシアに行ってから、しっかりと食費やら毎日にかかる費用を計算するようになり無駄遣いがかなり減った。(一年前なんかは家計簿すらつけていなかった)

本当に大事なものってのは最初から持ってたりするもんですよ。とか言いつつ。

でもまあ
旅の目的はコノハムシを撮りに行くことであって、自分を変えようなんて考えはオマケにすぎない。
それに僕みたいなタイプが旅の目的を「自分を変える」というものにすると永遠に旅が終わらぬ。(それはそれで楽しそうだが)

結局コノハムシを撮るという目的は達成できなかったので、またいつかマレーシアに赴きたい。

コノハムシが「青い鳥」になりませんように。

昆虫放浪記-コノハムシを捕まえろ-  完