マレーシア編 コノハムシを捕まえろ

昆虫少年時代 昆虫放浪記 -コノハムシを捕まえろ- その18

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タクシーを待つ

早めにベッドに入り、ぐっすり眠れたと思い時計を見るとまだ日付が変わる前。
どうしたもんかなと思い再びベッドに潜り込む。

朝飯はカップ麺を食べた。
お湯を沸かし始めた時、そういえば箸もフォークももらい忘れたなと思い仕方がないので手で食うかと考えていたが、カップ麺の中から折りたたまれたプラスチックのフォークが出てきて感動する。

8時15分にホテル前へタクシーが来てくれるとのことだったので、8時過ぎに部屋を出てチェックアウトを済ます。

ロビーでウォーターサーバーの水を飲みながらタクシーを待つ。
8時15分になった。
タクシーはまだ来ない。

8時30分になった。
ちゃんと伝えたよな?と少し不安になり、昨日応対してくれたフロントの兄ちゃんにタクシーは来るよね?と聞く。
なんか渋滞していてなかなかホテルにたどりつかないんだとか。
せっかちですまん。

8時45分にタクシーが来た。
フロントの兄ちゃんに礼を告げ、タクシーに乗り込む。

タクシーの兄ちゃんと適当な会話をしつつ(僕が英語できなさすぎて全然会話になっていない)。
どっから来たんや?だとか、10キロの道歩くのは大変やぞとか喋ってるうちに目的地であるクアラウォーに辿り着いた。

海野和男が若い頃に訪れていたときとは異なり(溺れそうになりながら川を岸まで泳いだんだとか)で、クアラウォーはちょっとした観光地になっているようで、入場料も必要だった。

タクシー料金の支払いの段階になり僕がお金を払おうとすると、お釣りねぇからちょっと待ってろと言って受付の方へ駆け出す兄ちゃん。
しばらくして入場券と、その額を差し引いたタクシー代のお釣りを渡してくれた。
あらま入場券を買いに行ってくれたのね。

ありがとうと言ってタクシー兄ちゃんと別れる。



アカエリトリバネアゲハとの対面

マレーシアの国蝶はアカエリトリバネアゲハである。
またの名をラジャブルックという。
いよいよご対面である。

実際のところ、アカエリトリバネアゲハに会えなかったら何しにマレーシアに行ったのかわからなくなってしまうような気がしていた。
(会えなければでそれもまたいい思い出にはなるだろうが)

公園に足を踏み入れ周りを見渡すと、目の前を何かがよぎった。
ここには絶対何かがいる。

温泉が沸き立つ川へとやってきた。
そこにはまだ何もいなかった。

午前9時過ぎだからまだ活動時間には早いよなと思い、川原の石に腰掛けてボーッとしていた。
目の前を鳥のような黒い物体が通り過ぎた。

鳥ではなかった。
アカエリトリバネアゲハだった。

優雅に宙を舞うその姿に釘付けになる。
僕は夢中でシャッターを切った。

少し上流の方へ向かうと3匹ほどが吸水をしていた。

かなり接近しても逃げる素振りは全く見せなかった。



昆虫少年時代

吸水を続けるアカエリトリバネアゲハを眺めながら昔のことを色々と思い出していた。
昆虫が見たい。こんな無邪気さで突き進んでいったのはいつぶりのことだろうか。
マレーシアに行き昆虫の写真を撮るという遠い昔に抱いていた夢が叶ったのだ。(コノハムシは撮れなかったが)

はっきり言って、僕はその夢をずっと忘れていた。
成長するにつれ昆虫は遠い存在となり、代わりにアニメやゲームといったものに興味が移っていき、いつの間にやら映画作りしたいとほざくボンクラになり下がっていた。
僕の幼少期は昆虫といった身近な自然から形成されていたということに気がつかず、大量生産大量消費といった価値観に毒され、何か大事なものをずっと見失っていたような気がしてならない。

昨年は毎週のようにちょっとした自然のある公園へ通い、昆虫の写真を撮っていた。
大人になってから昆虫を撮るようになったきっかけは、ポケモンGoをリアルでやったら面白いんじゃないか?みたいな気持ちだったが、毎週昆虫と触れ合うことで確実に僕のなかで何かが変わっていった。

幼き日々に「生きていること」の不思議さは全て昆虫が教えてくれていたように思う。
蛹から蝶へと変わる感動や、食う食われる寄生されるといった恐怖、そんなようなことを昆虫から僕は学び、哲学していた。

「生きていること」の不思議さを考える機会を失っている状態で、なんでもいいから映画を作りたいとぼんやり思っているだけの生活が何年も続いていた。映画作るなら色んな経験が大事だよという言葉を真に受け、結局ただ単にゲームなんかを消費したかっただけなんじゃないかと今は思う。

もっと早い段階で自然に帰るべきだったのかもしれない。
とは言え、この後悔こそが今の僕を突き動かしている。

そして、クアラウォーにいたアカエリトリバネアゲハに僕はこう呟いた。
「ただいま」と。

つづく